ハースストーン Tips

A Note on the Hearth

ハースストーンプレイヤーの備忘録

ヒストリック環境の多様性

先日、MTGトッププレイヤーの八十岡翔太さんの誕生日会ということで、有名MTGプレイヤーを招待してヤソさんが対談する様子がヤソさんのTwitchチャンネルで配信された。招待者の世代は多岐に渡り、競技シーンベースで面白くも実のある話ばかりが展開されているので、興味のある方はぜひアーカイブを見てみてほしい。

この記事では、この配信で語られたことを取り上げて書き進めたいと思う。全編は10時間にも及ぶ膨大な内容となっており、全てを拾うことはとても敵わないため内容を抜粋したい。今回は、私が大ファンである原根健太さんとの対談からの一部分を取り上げる。

上のリンクから原根さんの対談へと飛ぶことができる。24分あたりからの数十秒で話される話題について掘り下げたい。

 

"拡張のローテーションにより多くのプレイヤーがスタンダードを離れるだろう。それはスタンダードを支えていた屈指のパワーカードを数多く抱えるエルドレインが落ちるためだ。しかし、この拡張は必ずしも下環境で通用するほどのパワーがあるわけではないため、下環境参入のきっかけにはなり得ないだろう。"

といった内容がリンク部分以前で話されている。議題はリンク部分からの話題で、下環境ではファンデッキでもある程度戦えるためこれらが一定数存在しているが、スタンダードでは対照的に全くいない、という部分だ。上環境はプールの狭さからできることが限られるのは当然のこととして、他のDCGではしばしば下環境であっても特定のデッキが蔓延るという現象が起こっているのに、MTGAではこの傾向が薄いという話は興味深い。以下、このことについて考えていく。

これは、ヤソさんが強いデッキが強いデッキであるための条件について答えているインタビュー記事だ。Twitterでも似たようなことを呟いていたのだが、いつのものだったか忘れてしまったためこちらの記事を引用した。

  • 返されないぶん回りムーブを内蔵する
  • 弱点が少ない
  • 安定している
  • カード単体のパワーが高い

Twitterでは、これらのうち複数の要素を持つデッキがTier1になり得る、という説明をしていたように思う。

配信内で例に挙げられているエルフ、クレリック、ヴァンパイアデッキについてそれぞれ条件と照らし合わせてみたい。

 

エルフは、マナクリーチャーを使ってマナをスキップし、AoEが間に合わない段階で大量展開することでライフを削りきるプランがある。これは上で言うぶん回りムーブの類だ。

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クレリックは、恐らくセレズニアエンジェルとも呼ばれるデッキのことだろう。

天使やクレリックを召喚したときにライフをゲインできる効果を使い、ライフが一定値以上になったときのボーナス効果を使って圧倒的な盤面を作ることを目指すデッキだ。

マナスキップ手段が乏しい分エルフより爆発力は劣るが、ゲインできるため対アグロ性能は高く、スタッツボーナスによって赤の火力除去圏外に逃げることもできる、なかなかパワーのあるデッキだ。要素としては、ぶん回りに加え、勝ち筋が多いことによる弱点の少なさ、安定性を持っていると思う。

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ヴァンパイアは、吸血鬼種族を持つクリーチャーをかき集めた黒単色の部族デッキだ。

アグロデッキであることに加え、単色であるため色事故がなく、ドローソースもいくらかあるため息切れに耐性がある。安定性と、カード単体のパワーが高いという要素をもつことになるだろう。

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どれも強いデッキであるための要素は持っているが、トップティアに君臨するためにはもう一息といったデッキ達だ。噛み合えばそこそこ勝てる、という評価には頷ける。

 

この中でメタを回すとすれば、クレリックが最も強いデッキになると思う。展開一辺倒ではなく、除去があり、飛行クリーチャーによって一方的に殴ることもできるからだ。

しかし、これらのデッキの魅力は強さだけではないため、環境は必ずしもクレリック一色には染まらないだろう。例えば、部族にフィーチャーしたデッキであることが魅力の一つとして挙げられる。プレイヤーの中には、エルフファンや吸血鬼ファンがおり、これらの間のシナジーを利用して戦うことに楽しみを見出す者もいる。デッキの強さだけでなくカラーやカードタイプにアイデンティティを見出すことは、環境に存在するデッキの多様化に貢献する。

 興味深いのは、クリーチャーに種族を与えた目的は、デザインコードとしての役割を持たせるためであろうことだ。あるカードによって特定のクリーチャーをサーチする、特定のクリーチャー同士が集まることでマナを出す力、治癒させる能力が増大する、といったメカニズムを作りたいとする。これらをコードによって管理すると、それぞれ竜呼びがドラゴンを召喚する、エルフが集まることで森の力が強まりマナ量が増える、僧侶が集うことで治癒力が高まりライフゲイン量が増える、といった形にできる。このように種族には、効果に対応したコードをイメージとして便宜的に当てはめている節がある。こうやって体系化することで、カードデザインの負担を軽減したり、デザイナーズデッキとしての管理を容易にしたりする効果が期待できるだろう。

開発の利便性のためにカードに付与した属性が、しばしばプレイヤーにゲームをプレイする動機を与えているのはとても面白い。MTGAは、他のDCGに比べクリーチャーの持つ種族やストーリー性などゲームの背景部分に興味を持たせるのが非常にうまい。こういった、キャラクターの強さやゲーム体験ではない奥行きに付加価値を持たせることは、案外飽きの来ない環境作りに寄与するのかもしれない。

 

あるいは、研究対象としての消費からプレイヤーの興味を反らすのではなく、そもそも別のニーズに対して訴求している可能性がある。背景世界を活かしたデッキ創造による自己表現は、この記事に書いてあるジョニーが求めているものらしい。これは、愚直に勝利を追求するスパイクとは異なるニーズだ。

この記事の分類はとても面白いので、目を通しておいて損はない。誤解したくないのは、記事にも書いてあるとおりこれはプレイヤーのニーズを分類したものであって、プレイヤーそのものを分類したものではないということだ。プレイヤーははるかに複雑な精神活動を経てゲームプレイに至るため、相反する要素を併せ持つ場合も往々にしてある。

 

DCGの下環境の多様性に関して、そのファクターとして今回はゲームデザインの一部分を取り上げた。私としては、プレイヤーの性質やゲームシステムがメタゲームに及ぼす影響も小さくないと思っている。この辺りについてもいつか書き起こしたいが、現時点では私の知見が浅く記事に起こすには抽象的になりすぎる虞がある。幸い調べれば判断材料は転がっているため、これからの自身の体験を交えながら噛み砕いていきたい。